2020.05.26 コラム
【日本の食卓にもっとナンを】食文化研究家 永山久夫先生による「ナン食のススメ」
我々、デルソーレ党は日本人にとってナンが身近な存在であると感じてもらい、より食卓で楽しんでもらえるようにナンの新たな魅力の発信を行っています。
カレー以外の様々なおかずと一緒に食べてほしい。日本の食卓で日常的にナンを食べてもらいたい。
そんな想いから「ナンと和食」運動を行っております。
今回はそんな私たちの活動、さらには日本におけるナン食に関して、日本の食文化に精通した人物である、食文化史研究家 永山久夫先生にお話をお伺いいたしました。
※新型コロナウイルスの影響を受け、電話インタビューを実施。
永山先生
このお話をいただいてですね、何かの縁というか非常に興味深いと思ったんですよ。実は個人的にもナンの研究をしていたところでして、近々自宅の庭で平焼きの昔のナンを再現してみようとも計画していたところだったんです。また、ナンと一緒に食べる日本料理の相性やレシピの研究も改めて色々とさせていただきました。
今回は「人生100年時代の小麦ごはん」と題して、和食としてのナンについてお話をさせていただきます。
日本古来の文化を重んじながら他文化を取り入れ発展させる「和魂洋才」
まず和食の「和」という文字には3つの意味があります。
1つは「日本」という意味。次に「和やかにする」。そしてもう1つが「加えて新しい物を作る」という意味です。足し算のことを和算と言いますよね。
明治時代に和魂洋才(わこんようさい)という言葉が生まれました。
意味は、日本古来の文化を重んじながら、外国の文化を取り入れて日本を国際的に作り変えるというものです。国際化しなければ生き残ることができなかった当時の日本の選択肢の一つです。
今回、私はその和魂洋才という言葉をもじって「和魂ナン食」を推奨したいと思います。
日本が抱える高齢化の問題。さらに言えば、新型コロナウイルスによる未曾有の状況など、当時の日本が和魂洋才を選択した時と同様に、変化が求められる時代なのです。
そんな現代の日本において、どんな主食が有効なのか考えた結果、ナンはこれからの日本食を担う存在として圧倒的にお勧めできる食材だと思います。
日本におけるナンの歴史
まず、現在ではタンドール窯で焼いたものをナンと呼称しますが、原始的なナン、薄焼きのパンという意味で言うと、日本においては縄文時代まで遡ります。
当時は小麦粉ではなくて、どんぐりの粉を用いて焼いた石の上で調理していました。その後、弥生時代になると小麦を作っていますから、必然的にナンようなものを作っていたと思います。
また、ナンを作った日本人として有名な人物の名前をあげると、千利休がおります。どういったナンかと言うと小麦を水で溶いて、それを鉄板の上に流して焼いたものなんです。そこに甘味をつけた味噌をつけてくるくるっと巻いて食べるんです。「ふの焼」と呼ばれるもので、私自身も再現して食べたことがあるのですが、これが美味い。当時はお茶菓子として食べられていたようで、甘味噌と一緒に生姜を入れたり、シンプルな食べ方ではありますがとても美味しいんです。
江戸時代にはこのような薄焼きのパンはメジャーな存在になっております。小麦は二毛作で作れますから、日本でも古くから食されていたんです。また、これは私自身の経験になるのですが、戦後間もない頃はコメが手に入りづらく、アメリカから輸入された小麦粉を使って同様のものを食べていました。
日本で独自の発展を遂げたカレーライス
ナンと一緒に食べることの多いカレーは本家のものとは大分変わり、カレーライスとして日本に定着しました。ナンも和食と一緒に食べることで新しい和食の形を切り開いてくれるかもしれません。
和魂洋才という言葉を冒頭に使ったように、日本は他文化をアレンジして新しい物を作ることに長けています。食文化に対して国境というものは存在しませんしね。
日本においてナンを広めるとしたら、ただ単に和食と合わせる主食として提案するのではなく、新しい時代の和食という広め方をした方が良いかもしれません。その方が「ナン=カレーとともに食べるもの」という古いイメージからの脱却もできますし、何よりも新鮮味があります。
これからの日本にナンがお勧めな理由
ナンはカレーなどのスープに付けるため、手でちぎって食べます。
この手でちぎるという行為には指先を使います。指先というのは脳と直結する神経細胞がたくさんあるので、指先を使うというのは、脳を使うことになるのです。
指先を使うことで脳の機能低下を防ぐことになります。ちぎるという行為はとても有効で、日常的にナンをちぎって食べることは、脳の若返りにつながるんです。
日本の65歳以上の高齢化比率は28.4%。これは世界一です。2番目はイタリアなんですが数値はずっと下。世界で一番高齢者の多い国は日本です。
シャングリラという土地をご存知でしょうか?イギリスのジェームズ・ヒルトンという作家が小説のなかで書いた人々の理想郷です。小説の中で、このシャングリラに住んでいる人々はものすごく長生きをするんです。老化というものとは無縁の存在なんです。そんな人々が食べていたとされるのが、薄焼きのパン。つまりナンだったのです。
高齢化社会で、人生100年時代と呼ばれる日本において、小麦ごはんのナンは主食として最適な食材です。
ナンとともに食べる日本食
ナンの和食としての食べ方として、まずお勧めしたいのは「ナンスキ」ですね。
驚かれるかもしれませんが、ナンをすき焼きと一緒に食べるんですよ。今回のお話をいただく前から作っておりまして、以前テレビのお仕事でご一緒した番組ディレクターの方にも振る舞ったことがあるんです。皆さん大喜びで食べてくれましたよ。
普通のすき焼きですと卵に牛肉をつけて食べますが、ナンスキの場合は豚肉がお勧めです。そして、すき焼き自体に溶き卵をかけてしまうんです。少し卵が固まったタイミングで、ナンとともに食べるも良し、ちぎったナンを汁に付けて食べるも良しで絶品なんですよ。正直言ってご飯よりも合うと思います!
子どもは喜ぶし、ビールにも合うので大人の方にもピッタリの食べ方ですね。私は今88歳ですけど、ナン2枚くらいならペロリと食べられるくらい美味しいんです。
このナンスキですが、味はもちろんのこと、豚肉にはビタミンB1が多く含まれています。ナンは炭水化物の塊ですが、ビタミンB1を豊富に含む豚肉とともに食べることで炭水化物の燃焼をサポートしてくれるので、栄養としての組み合わせも最高なんです。
その他にも和食との組み合わせを色々と試してみたので、お勧め順に紹介させてもらいます。まず1番合ったのは、以外かもしれませんがひじきの煮つけ。2番目がきんぴらごぼう。3番目がツナを入れて作るツナカレー。4番目がニンニクソースです。
ニンニクソースというのは、みじん切りにしたニンニクとタマネギをオリーブオイルで炒め、豚ひき肉を追加。そこに味噌・だし汁・ケチャップで味付けをして作るソースです。ニンニクに含まれるアリシンという成分、これは豚肉に含まれるビタミンB1の働きを高める効果がありますので、燃焼サポートとともに血糖値の上昇まで抑えてくれます。また免疫を高める効果もあるんです。
5番目はタマネギをたっぷり入れた豚汁。6番目はタマネギと桜エビを使ったかき揚げ。こちらも栄養効果が高く美味しい。味付けは揚げてから天つゆなんかにつけるのではなく、天ぷら粉に醤油を入れてください。あとは鳥の胸肉のてり焼き。醤油とみりん、オリーブオイルを少し加えて煮込むんです。レタスとかと一緒にナンに挟んで食べると食感も楽しめます。
とにかく、ナンは和食との相性が抜群なのでぜひ試してみてください。
究極のカレー
ナンと相性の良い和食を紹介しましたが、ナンといえばやはりカレーとの相性も抜群です。
そこで、味と栄養吸収の面で究極と言えるカレーの作り方もご紹介します。
と言っても難しいことはありません。豚肉・タマネギ・ニンジン・ホウレンソウ・キャベツ・ニンニクを細かく切って煮込んでください。形が残った具材は濾すかミキサーにかけるなどしてトロトロのスープ状にしてください。あとは、カレーパウダーを入れ、塩と砂糖で味をつける。
それだけで完成です。野菜によるとろみがあるので小麦粉を入れる必要はありませんが、とろみが好きな方は全粒粉などを混ぜてとろみを強めるといいですね。作り方はアバウトでいいですし、とても簡単なんですが、手のばしナンにとてもよく合います。
何より栄養吸収に優れているんです。本来、野菜の細胞は細胞壁に守られているのですが、原形が無くなるスープ上にまですることで、食材の栄養素を無駄なく吸収することができます。
アフターコロナ
最後に今回の新型コロナウイルスによる不自由な生活を経験して「人生は楽しまなければ損」。多くの人がそう感じたと思います。人生を楽しむ1つの大きな要素は「食」です。
食を楽しむには何を食べるかもそうですが、誰と食べるかも重要です。独身の人は恋人と、結婚されている方はご家族で、ぜひ心ときめくような会話をしながらナンを食べてください。
そうすることで、オキシトシンという幸せホルモンが分泌され心臓や脳血管を丈夫にしてくれます。また女性の方はエストロゲン、男性の方はテストステロンも分泌されます。エストロゲンは女性ホルモンで、女性の方が長生きするのはこのホルモンによるものだと考えられていて、テストステロンの方は意欲を出させるホルモン。新しい仕事にチャレンジしようという気持ちが生まれます。先ほどご紹介した豚肉や鳥の胸肉を使う料理であれば、そのような効果をより高めてくれますから一度召し上がってみてください。
和魂洋才。他文化を取り入れて今の日本ができています。
ナンといえばカレーと一緒に。そんな古いイメージにはとらわれずに、色々と新しい食べ合わせを試してみてください。和魂ナン食、面白い発見があるはずですよ。
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