2020.07.06 コラム

ナンに親しみがあるのはインドより日本?現地以上にナンが日本で愛されている理由とは

インドやネパールなどの国で、カレーと共に食べられているイメージがあるナン。実際に日本に店をかまえる多くのインド・ネパール料理店が、手作りのナンをカレーとともに提供しています。
しかし、実は‟本場インドでナンはあまり食べられていない”って皆さんご存知でしょうか?

今回はそんな、にわかには信じ難い噂の真相を探るべく、調査を実施してきました。

 

日本に来て初めてナンを食べた

まずは現地の一般家庭で本当にナンが食べられていないのか確かめるため、インドの方が多くお住まいになっている東京都西葛西で街頭インタビューを行いました。

 

――――――インドではナンをあまり食べないというのは本当ですか?

「本当です。私はインドでは食べたことがないです。」

 

こちらの男性は日本のインド料理店で初めてナンを食べたのだそう。ナンはレストランなど特別な場所で食べるものであり、日常的に食べるものではないと言います。日本のインド・ネパール料理店では当然のように提供されているナンですが、現地ではあまり食べられていないのはなぜなのでしょうか?

別の方にもお話を伺いました。

 


「タンドール窯がないと、インドの伝統的なナンは作れないんです。」

 


「タンドール窯がないので、99パーセントは(自宅でナンを)食べないですね。」

 

インタビュー中、度々出てくる「タンドール窯」というワード。このタンドール窯とは、ナンを焼く際に必要な壷型オーブンのことを言います。入口が狭まった大きな壺のような形をしており窯の底で薪炭を燃やして内部を300~500度まで加熱し、内側に生地を張り付けてナンを焼きます。インド料理店のキッチンを覗いた際にチラッと見たことがある、という方も多いのではないでしょうか。

 

ナンを焼くにはこのタンドール窯が必要なのですが、家の中にタンドール窯を置くスペースなどないのと、薪炭などの燃料にも相当な維持費がかかるため一般的ではないのです。実際に現地で食べられているのは、お米やフライパンで作ることができる「チャパティ」と呼ばれる薄い丸型パンであり、我々が普段食べている大きなしずく型のナンが一般家庭の食卓に並ぶことはほとんどありません。

 

ナンが日本で普及したのは、ある日本人の勘違いから

一般家庭はもとより本場インドのレストランでも導入しているお店が限られるというタンドール窯が、日本のほとんどのインド・ネパール料理店で導入されているのは、なぜでしょうか?

 

その答えを探るため、都内でタンドール窯の製造販売している有限会社神田川石材商工の3代目代表・竹田伴康さんにお話を伺いました。

 

 

神田川石材商工は国内のインド・ネパール料理店で使用されている過半数のタンドール窯を製造しており、そのタンドール窯の開発をしたのは現代表の竹田さんの先代であり伯父の高橋重雄さん。当時はナンはおろかインド・ネパールの食文化が日本に浸透していなかったにも関わらず、タンドール窯の製造を始めたのは高橋さんの‟ある思い込み”にあったと竹田さんは語ります。

 

 

先代の高橋さんは、それまで製造していたパン焼き窯の売り上げが低迷し、新たな商品の開発を模索していた中、インド料理で使用されるタンドール窯の存在を知りました。実際には北インドの一部でしか使用されていなかったにもかかわらず、‟インドではタンドール窯を使って調理をするのが主流”という勘違いをして、その需要を満たすためにタンドール窯の製作を始めてしまったのです。

 

 

当然、一般的にも馴染みがないタンドール窯を当時のインド・ネパール料理店へ売り込みしてもほとんど相手にされませんでした。

しかし、高橋さんはめげることなく「インド料理にタンドール窯は不可欠である」という強い意志を持って、現地の方ですら知らないタンドール窯で焼くナンの素晴らしさをアピールして、タンドール窯の営業を続けたのです。
その熱意によって、仕方なくタンドール窯を導入してくれる店舗が徐々に現れ始めます。神田川石材商工の作るタンドール窯は本場インドのタンドール窯よりも耐久性に優れ、かつきめ細かい顧客対応も相まって、全国にその素晴らしさが知られていきます。いつしか本来タンドール窯を使用することのない南インドの料理を扱った店舗ですら神田川石材商工のタンドール窯を使用してナンを提供するようになったのです。

 

 

いつしか、インド料理といえば「タンドール窯を使用したナンを出すお店」。そんなイメージが日本に定着し、現在のように全国各地のインド・ネパール料理店でナンが提供されるようになったのです。
たった一人の勘違いが、日本におけるインド料理の概念を覆してしまったのです。とても驚くべきことではありますが、皆さんもご存知の通り、ナンってとっても美味しいですよね。

 

始まりは勘違いだったかもしれませんが、その美味しさが、本場の人の心を動かし、そして日本人の舌をうならせて、ここまで広く愛される存在になったのです。日本で愛されるナン、現地の食べ物であるナンはもちろんのこと、日本人の舌にもマッチした主食なのでぜひ日本のおかずとも合わせて食べてみてください。きっと新しい発見があるはずですよ。

このプロジェクトの担当者

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デルソーレ党事務局

「ナンと和食」の普及活動を通して日本の食卓にナンを広めるべく、デルソーレ党は日々活動しております。